「技術・人文知識・国際業務」の在留資格
この記事では、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格について、仕事(活動)の内容、日本に入国(上陸)しようとする際に満たすべき上陸基準について解説しています。これから「技術・人文知識・国際業務」に資格変更したいと考えている方や事務職の外国人を雇用したいと考えている企業の方に役立つ内容となっています。
1.「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の活動内容
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、例えば語学を専攻した外国語大学を卒業した者が、「翻訳、通訳」業務を行おうとする場合や、経済学を専攻して大学を卒業した者が「海外取引業務」に従事しようとする場合、いずれも「技術・人文知識・国際業務」が許可されます。
このうち、「技術」については、システムエンジニア、プログラマ―、航空機の整備、精密機械器具や土木・建築機械などの設計・開発などの技術系専門職が該当します。
「人文知識」は、経理、金融、総合職、会計、コンサルタント等の文科系の専門知識を必要とする活動です。
「国際業務」は、翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝、海外取引業務、デザイン、商品開発など外国文化に基盤を有する思考又は感受性に基づく一定水準以上の専門的能力を必要とする活動です。
これらの3つのカテゴリーは、許可要件、上陸基準が異なります。
学術上の素養を背景とする一定水準以上の専門的技術又は知識を必要とする活動又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性に基づく一定水準以上の専門的能力を必要とする活動でなければいけません。
ただし、在留資格としては、「技術・人文知識・国際業務」として一つです。従って、「人文知識」のカテゴリーで許可を得た場合でも、在留資格の該当性の及ぶ活動範囲は、「技術」および「国際業務」のいずれも含まれますので、「技術」および「国際業務」の活動を行ったとしても、資格外活動には当たりません。(虚偽申請があった場合はこの限りでありません)
◆コンピュータソフトウェア開発の業務
本国において工学を専攻して大学を卒業し,ゲームメーカーでオンラインゲームの開発及びサポート業務等に従事した後,本邦のグループ企業のゲーム事業部門を担う法人との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,同社の次期オンラインゲームの開発案件に関するシステムの設計,総合試験及び検査等の業務に従事するもの。
なお、このように、一般には、理科系の技術の分野になりますが、文科系の科目を専攻して大学を卒業し(例えば、会計学など)、この科目の知識を必要とするコンピュータソフトウェアを開発する業務に従事する場合は、「技術」ではなく「人文知識」に該当します。従って、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得できます。 つまり、理科系の大学を卒業していなくても、コンピュータソフトウェアを開発する業務に従事することができる場合があります。
◆通訳・案内、語学指導
経営学を専攻して本邦の大学を卒業し,本邦の航空会社との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,国際線の客室乗務員として,緊急事態対応・保安業務のほか,乗客に対する母国語,英語,日本語を使用した通訳・案内等を行い,社員研修等において語学指導などの業務に従事するもの。
または、本国の大学を卒業した後,本邦の語学学校との契約に基づき,月額約25万円の報酬を受けて,語学教師としての業務に従事するもの。
◆ホテルのフロント業務
本国の大学を卒業して、ホテルのフロント業務、外国人観光客のホテル内施設の案内業務に従事しようとする場合、状況によって許可・不許可のいずれもあり得ます。
・客の荷物運搬やなどの単純就労が主たる業務になっている・・・単純労働として不許可の可能性高い。
・外国人客の対応のための通訳業務が主たる業務である・・・国際業務として許可の可能性高い。(ただし、ホテルの規模、外交人客の人数なども考慮され、外国人客の数が、一日を通じてそれほど無いのであれば、主たる業務とみなされず不許可の可能性がある)
◆本邦の公私の機関
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、本邦の公私の機関との契約に基づいて行う資格です。
1)ここで機関とは、公益法人、民間会社、外国法人の日本支店などですが、個人経営も含みます。
2)契約の形態としては、雇用のほか、委任、委託、嘱託、派遣も含みます。派遣契約の場合は、派遣元(雇用主)の業務ではなく、派遣先での業務が在留資格に該当するかどうかで判断されます。
◆不許可の事例
1.本国で日本語学を専攻して大学を卒業した者が,本邦の旅館において,外国人宿泊 客の通訳業務を行うとして申請があったが,当該旅館の外国人宿泊客の大半が使用する言語は申請人の母国語と異なっており,申請人が母国語を用いて行う業務に十分な業務量があるとは認められないことから不許可となったもの
2.本邦の専門学校においてホテルサービスやビジネス実務等を専攻し,専門士の称号 を付与された者が,本邦のホテルとの契約に基づき,フロント業務を行うとして申請があったが,提出された資料から採用後最初の2年間は実務研修として専らレストランでの配膳や客室の清掃に従事する予定であることが判明したところ,これらの「技術・人文知識・国際業務」の在留資格には該当しない業務が在留期間の大半を占めることとなるため不許可となったもの
2.上陸基準について
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格には、日本に入国(上陸)する際の上陸基準があります。
申請人が次のいずれにも該当していること。ただし、申請人が、外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(昭和611年法律第616号)第518条の2に規定する国際仲裁事件の手続についての代理に係る業務に従事しようとする場合は、この限りでない。
1.申請人が自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務に従事しようとする場合は、従事しようとする業務について、次のいずれかに該当し、これに必要な技術又は知識を修得していること。
ただし、申請人が情報処理に関する技術又は知識を要する業務に従事しようとする場合で、法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験に合格し又は法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する資格を有しているときは、この限りでない。
@ 当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学を卒業し、又はこれと同等以上の教育を受けたこと。
A 当該技術又は知識に関連する科目を専攻して本邦の専修学校の専門課程を修了(当該修了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)したこと。
B 10年以上の実務経験(大学、高等専門学校、高等学校、中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程において当該技術又は知識に関連する科目を専攻した期間を含む。)を有すること。
2.申請人が外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合は、次のいずれにも該当していること。
@ 翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。
A 従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験を有すること。ただし、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、この限りでない。
3.日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
◆技術・人文知識の分野
1.「大学を卒業」とは、学士または短期大学士以上の学位を取得した者をいいます。
「これと同等以上の教育を受け」とは、大学(短期大学を除く)の専攻科・大学院の入学に関して大学卒業者と同等であるとして入学資格が付与される機関および短期大学卒業と同等である高等専門学校の卒業者が該当します。
2.「関連する科目を専攻」とは、単に大学を卒業していればよいというのではなく、従事しようとする業務に必要な知識に関連する科目を専攻して卒業していなければなりません。
◆国際業務の分野
1.国際業務のカテゴリーに列挙されている「翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務」に従事する場合であっても、大学等において、従事しようとする業務に必要な科目を専攻し、卒業した者または日本の専門学校を修了し、専門士の称号を得た者である場合は、「人文知識」のカテゴリーが適用されるため、実務経験は不要となります。
2.国際業務のカテゴリーでは、原則、3年以上の実務経験を要しますが、「ただし書き」により、大学を卒業して者であれば、翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合には、実務経験は不要となります。
3.「語学の指導」と「教育」の在留資格
国際業務の中の「語学の指導」とは、学校(小・中学校、高等学校など)以外の一般企業などにおいて教育活動をする場合です。「教育」は、学校において語学教育をする場合です。
日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬とは
一般的には、月額25万円以上(税込み)、あるいは年額300万円以上(税込み)といわれていますが、必ずしもこの金額以上でなければ許可されない、というわけでもありません。
また、雇用主として給与額を設定する際には、在留許可ということではなく、そもそも法令違反にならないようにしなければなりません。
労働基準法(第3条)は、「使用者は労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金・労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをしてはならない。」と定めています。つまり、日本で外国人を雇用するときには、同じ職種・同じような雇用形態(正社員・パート等の区別)で働いている他の日本人従業員と全く同じ労働条件(給与・労働時間など)のもと、雇用しなければなりません。
最低賃金法第1条は、賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障しており、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の 賃金を支払わなければならない」(最低賃金法第4条第1項)と定められています。違反した場合は罰則があります。
労働基準法や最低賃金法違反になっていたというようなことがないようにしなければなりません。
なお、東京都では、東京労働局長より、2020年8月に最低賃金時間額を現行どおりに1,013円とすると公表されています。
参考記事